<大学数学>これでバッチリ! 行列式の応用編①

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行列の可逆性の判定 編

今回の記事は、行列式の応用編ということで行列式を用いて行列の可逆性を判定する方法や逆行列を求める方法を紹介します。

初学者向けにわかりやすく、例題や練習問題もつけて解説しているのでぜひ最後までご覧ください。

また、行列式の基礎を知りたい方は以下の記事を読んでからこの記事を読みましょう。

<大学数学>これでバッチリ! 行列の基礎編① | さんそ ブログ (sannso-o2.com)

この記事を書いている人

・京都大学理系学部

・大学で線形代数学を学習中

行列の可逆性とは?

今回のテーマである行列の「可逆性」とは何かについて解説します。

行列の「可逆性」とは、ある行列に対して、その逆行列が存在するかどうかを意味します。

逆行列が存在する行列は「可逆行列」と呼ばれ、逆行列を持たない行列は「特異行列」と呼ばれます。

逆行列について

では、逆行列とは一体なにものなのでしょうか。

逆行列とは、行列 \( A \) に対して、その逆行列\( A^{-1} \)を掛けたときに「単位行列」になるような行列のことです。


もし行列 \( A \)の逆行列\( A^{-1} \) が存在すれば、
\[
A \cdot A^{-1} = A^{-1} \cdot A = I
\]

が成り立ちます。つまり、逆行列を持つ行列は、逆方向に操作を戻すことができるという性質を持っています。

逆行列が存在する条件

では、どのような行列が逆行列を持つのでしょうか?その判定に非常に有効なのが「行列式」です。

次のルールが成り立ちます。

行列式が0でない行列は、逆行列を持ち「可逆」である。

行列式が0の行列は、逆行列を持たない「特異行列」である。

行列式を用いた逆行列の求め方

逆行列は様々な方法で求めることができます。

例えば、掃き出し法を用いる方法などがあります。

掃き出し法を用いるやり方は以下の記事を読んでください。

<大学数学>これでバッチリ! 掃き出し法の応用 | さんそ ブログ (sannso-o2.com)

そして、今回は行列式を用いる方法を解説します

2次正則行列の逆行列

2×2 行列の場合、逆行列を直接求める公式があります。行列\( A \)を次のように定めます。
\[
A = \begin{pmatrix}
a & b \\
c & d
\end{pmatrix}
\]
このとき、行列 \( A \) の逆行列は次のように計算されます。

\[
A^{-1} = \frac{1}{\text{det}(A)} \begin{pmatrix}
d & -b \\
-c & a
\end{pmatrix}
\]

ただし、\(det(A)\)は行列\( A \)の行列式で
\[
\text{det}(A) = ad – bc
\]

3次正則行列の逆行列

3次正則行列も同様に行列式を使うので、行列式の計算を知りたい方は以下の記事を読んでください。

では、逆行列の計算手順を説明します。

1. まず、行列式を計算する。

2. すべての余因子行列式を計算する。

3.共役行列の計算をする。

この3つの手順を行うだけで逆行列を求めることができます。

では、それぞれみていきましょう。

行列式の計算

行列式\( B \)を次のように表すとします。
\[
B = \begin{pmatrix}
a & b & c \\
d & e & f \\
g & h & i
\end{pmatrix}
\]
このとき、行列式は
\[
\text{det}(B) = a(ei – fh) – b(di – fg) + c(dh – eg)
\]
です。

余因子行列の計算

次に、行列の余因子(cofactor)を計算します。

余因子は、元の行列から得られる小行列の行列式に符号を付けたものです。

3×3 行列の場合、余因子行列は次のように計算されます。

行列 \( B \)の余因子行列 \( C \) を求めるためには、各要素の余因子を計算します。余因子 \( C_{ij} \)は、行列 \( B \)から第 \( i \)行と第 \( j \)列を削除した小行列の行列式です。

これに符号を付けたものが余因子です。

各要素の余因子は次のように計算されます。

\[
C_{11} = \text{det} \begin{pmatrix} e & f \\ h & i \end{pmatrix} = (e \cdot i – f \cdot h), \\
\]
\[
C_{12} = -\text{det} \begin{pmatrix} d & f \\ g & i \end{pmatrix} = -(d \cdot i – f \cdot g), \\
\]
\[
C_{13} = \text{det} \begin{pmatrix} d & e \\ g & h \end{pmatrix} = (d \cdot h – e \cdot g), \\
\]
\[
C_{21} = -\text{det} \begin{pmatrix} b & c \\ h & i \end{pmatrix} = -(b \cdot i – c \cdot h), \\
\]
\[
C_{22} = \text{det} \begin{pmatrix} a & c \\ g & i \end{pmatrix} = (a \cdot i – c \cdot g), \\
\]
\[
C_{23} = -\text{det} \begin{pmatrix} a & b \\ g & h \end{pmatrix} = -(a \cdot h – b \cdot g), \\
\]
\[
C_{31} = \text{det} \begin{pmatrix} b & c \\ e & f \end{pmatrix} = (b \cdot f – c \cdot e), \\
\]
\[
C_{32} = -\text{det} \begin{pmatrix} a & c \\ d & f \end{pmatrix} = -(a \cdot f – c \cdot d), \\
\]
\[
C_{33} = \text{det} \begin{pmatrix} a & b \\ d & e \end{pmatrix} = (a \cdot e – b \cdot d)
\]

全ての余因子をまとめると、次のような余因子行列 \( C \)が得られます

\[
C = \begin{pmatrix}
e \cdot i – f \cdot h & -(d \cdot i – f \cdot g) & d \cdot h – e \cdot g \\
-(b \cdot i – c \cdot h) & a \cdot i – c \cdot g & -(a \cdot h – b \cdot g) \\
b \cdot f – c \cdot e & -(a \cdot f – c \cdot d) & a \cdot e – b \cdot d
\end{pmatrix}
\]

共役行列の計算

逆行列を求める3つ目の手順です。

余因子行列の転置行列を共役行列 (adjugate matrix)と呼びます。共役行列は、余因子行列を転置することで得られます。

つまり、共役行列 \( adj(B) \) は次のようになります。

\[ 
\text{adj}(B) = \begin{pmatrix}
e \cdot i – f \cdot h & -(b \cdot i – c \cdot h) & b \cdot f – c \cdot e \\
-(d \cdot i – f \cdot g) & a \cdot i – c \cdot g & -(a \cdot f – c \cdot d) \\
d \cdot h – e \cdot g & -(a \cdot h – b \cdot g) & a \cdot e – b \cdot d
\end{pmatrix}.
\]

逆行列を求める

これまでの3つの計算を組み立てて次のように逆行列を求めることができます。

\[
B^{-1} = \frac{1}{\text{det}(B)} \cdot \text{adj}(B)
\]

したがって、逆行列 \(B^{-1}\) は次のようになります。

\[
B^{-1} = \frac{1}{a(ei – fh) – b(di – fg) + c(dh – eg)} \cdot
\]
\[
\begin{pmatrix}
e \cdot i – f \cdot h & -(b \cdot i – c \cdot h) & b \cdot f – c \cdot e \\
-(d \cdot i – f \cdot g) & a \cdot i – c \cdot g & -(a \cdot f – c \cdot d) \\
d \cdot h – e \cdot g & -(a \cdot h – b \cdot g) & a \cdot e – b \cdot d
\end{pmatrix}
\]

これで、逆行列を求めることができました。

今回は3次正則行列の逆行列までしか解説しませんでしたが、4次以上でも手順は全く同じです。

問題演習

解説はすべてしたので、これから演習を通して慣れていきましょう。

例題

以下の行列の逆行列が存在するか確かめ、逆行列が存在する場合は逆行列を求めよ。

例題1

\[
A = \begin{pmatrix} 2 & 3 \\ 1 & 4 \end{pmatrix}
\]

例題2

\[
B = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 0 & 1 & 4 \\ 5 & 6 & 0 \end{pmatrix}
\]

例題1解答

まず、行列式を求めると、

\[
\text{det}(A) = (2 \times 4) – (3 \times 1) = 8 – 3 = 5
\]
よって、逆行列は存在する。

\[
A^{-1} = \frac{1}{\text{det}(A)} \begin{pmatrix} d & -b \\ -c & a \end{pmatrix}
\]

この逆行列の公式を用いて逆行列を求めると、

\[
A^{-1} = \frac{1}{5} \begin{pmatrix} 4 & -3 \\ -1 & 2 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} \frac{4}{5} & -\frac{3}{5} \\ -\frac{1}{5} & \frac{2}{5} \end{pmatrix}
\]

例題2解答

行列式の計算をすると、
\[
\text{det}(B) = 1 \cdot \text{det} \begin{pmatrix} 1 & 4 \\ 6 & 0 \end{pmatrix} – 2 \cdot \text{det} \begin{pmatrix} 0 & 4 \\ 5 & 0 \end{pmatrix} + 3 \cdot \text{det} \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 5 & 6 \end{pmatrix}
\]

それぞれの小行列式を求めると、
\[
\text{det} \begin{pmatrix} 1 & 4 \\ 6 & 0 \end{pmatrix} = -24, \quad \text{det} \begin{pmatrix} 0 & 4 \\ 5 & 0 \end{pmatrix} = -20, \quad
\]
\[
\text{det} \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 5 & 6 \end{pmatrix} = -5 ,\quad \text{det} \begin{pmatrix} 2 & 3 \\ 6 & 0 \end{pmatrix} = -18, \quad
\]
\[
\text{det} \begin{pmatrix} 1 & 3 \\ 5 & 0 \end{pmatrix} = -15 ,\quad \text{det} \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 5 & 6 \end{pmatrix} = -4, \quad
\]
\[
\text{det} \begin{pmatrix} 2 & 3 \\ 1 & 4 \end{pmatrix} = 5 ,\quad \text{det} \begin{pmatrix} 1 & 3 \\ 0 & 4 \end{pmatrix} = 4, \quad
\]
\[
\text{det} \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} = 1
\]

よって、行列式を計算すると、
\[
\text{det}(B) = -24 + 40 – 15 = 1
\]
よって、逆行列は存在する。

また、共役行列 \( adj(B) \) を求めると、余因子行列の符号を考慮して、
\[
adj(B)=
\begin{pmatrix}
-24 & 18 & 5 \\
20 & -15 & -4 \\
– 5 & – 4 & 1
\end{pmatrix}
\]

逆行列の公式である
\[
B^{-1} = \frac{1}{\text{det}(B)} \cdot \text{adj}(B)
\]
を用いると、

\[
B^{-1} =
\begin{pmatrix}
-24 & 18 & 5 \\
20 & -15 & -4 \\
– 5 & – 4 & 1
\end{pmatrix}
\]

練習問題

以下の行列の逆行列が存在するか確かめ、逆行列が存在する場合は逆行列を求めよ。

練習問題

\[
B = \begin{pmatrix} 2 & 1 & 3 \\ 4 & 5 & 6 \\ 7 & 8 & 9 \end{pmatrix}
\]

練習問題解答

まず、行列式を計算すると
\[
\text{det}(B) = 2 \cdot \text{det} \begin{pmatrix} 5 & 6 \\ 8 & 9 \end{pmatrix} – 1 \cdot \text{det} \begin{pmatrix} 4 & 6 \\ 7 & 9 \end{pmatrix} + 3 \cdot \text{det} \begin{pmatrix} 4 & 5 \\ 7 & 8 \end{pmatrix}
=-9
\]
よって、逆行列は存在する。

それぞれの小行列式を求めると、
\[
\text{det} \begin{pmatrix} 5 & 6 \\ 8 & 9 \end{pmatrix} = -3, \quad \text{det} \begin{pmatrix} 4 & 6 \\ 7 & 9 \end{pmatrix} = -6, \quad
\]
\[
\text{det} \begin{pmatrix} 4 & 5\\ 7 & 8 \end{pmatrix} = -3 ,\quad \text{det} \begin{pmatrix} 1 & 3 \\ 8 & 9 \end{pmatrix} = -15, \quad
\]
\[
\text{det} \begin{pmatrix} 2 & 3 \\ 7 & 9 \end{pmatrix} = -3 ,\quad \text{det} \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 7 & 8 \end{pmatrix} = 9, \quad
\]
\[
\text{det} \begin{pmatrix} 1 & 3 \\ 5 & 6 \end{pmatrix} = -9 ,\quad \text{det} \begin{pmatrix} 2 & 3 \\ 4 & 6 \end{pmatrix} = 0, \quad
\]
\[
\text{det} \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 4 & 5 \end{pmatrix} = 6
\]

また、共役行列 \( adj(B) \) を求めると、余因子行列の符号を考慮して、
\[
adj(B)=
\begin{pmatrix}
-3 & 15 & -9 \\
6 & -3 & 0 \\
-3 & -9 & 6
\end{pmatrix}
\]

逆行列の公式
\[
B^{-1} = \frac{1}{\text{det}(B)} \cdot \text{adj}(B)
\]
を用いて
\[
B^{-1} = \frac{1}{-9} \begin{pmatrix}
-3 & 15 & -9 \\
6 & -3 & 0 \\
-3 & -9 & 6
\end{pmatrix}
\]

今回のまとめ

この記事では、行列式を用いた可逆性の判定、及び逆行列の求め方を学ぶことができました。

これでバッチリ!!

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