大学数学において、掃き出し法は非常に重要なツールです。
この手法は連立一次方程式の解を求めるだけでなく、解構造の理解や逆行列の計算にも広く応用されます。
本記事では、掃き出し法の応用を詳しく解説し、連立一次方程式の解構造や逆行列の計算について具体例を交えて説明します。
掃き出し法の基本をまだ見ていない人や掃き出し法が分からない人は次の記事をまず読んでみてください。
<大学数学>これでバッチリ! 掃き出し法の基礎 | さんそ ブログ (sannso-o2.com)
この記事を書いている人
・京大理系学部
・大学で数学や物理化学を学習中
では、早速見ていきましょう!
掃き出し法による解構造の理解
解構造の種類
連立一次方程式の解には様々な形があります。
特に解の数や構造に関して、次の3つの場合があります。
1.唯一の解が存在する場合
2.無数の解が存在する場合
3.解が存在しない場合
それぞれの場合について詳しく見ていきましょう。
唯一の解が存在する場合
この場合は、行列 A が正則(非特異)である場合に対応します。
つまり、掃き出し法を用いて行列 A を簡約化すると、対角線上にすべて1が並び、それ以外の要素が0になる上三角行列が得られます。
無数の解が存在する場合
行列 \( A \) が特異(ランクが満たない、正則でない)で、かつ拡大係数行列 \( (A | \mathbf{b}) \) のランク(次元)が \( A \) のランクと等しい場合、無数の解が存在します。このとき、自由変数を用いて解の一般形を表現します。
では、具体例を見ていきましょう。
例えば、次の連立一次方程式を考えます。
\[
\begin{cases}
x + 2y = 3 \\
2x + 4y = 6
\end{cases}
\]
これを行列形式にすると
\[
\begin{pmatrix}
1 & 2 & | & 3 \\
2 & 4 & | & 6
\end{pmatrix}
\]
掃き出し法を適用して
\[
\begin{pmatrix}
1 & 2 & | & 3 \\
0 & 0 & | & 0
\end{pmatrix}
\]
よって、行列 A が特異(ランクが満たない、正則でない)で、かつ拡大係数行列 A|bのランク(=1)が A のランク(=1)と等しいので、無数の解を持つ場合です。
このとき、解は次のように表されます。
\[
x = 3 – 2y
\]
ここで \( y \) は自由変数です。
解が存在しない場合
行列 \( A \) が特異で、拡大係数行列 \( (A | \mathbf{b}) \) のランクが \( A \) のランクよりも大きい場合、解が存在しません。
これは、矛盾する方程式が含まれていることを意味するからです。
具体例を見ていきましょう。
例えば、次の連立一次方程式を考えます。
\[
\begin{cases}
x + 2y = 3 \\
2x + 4y = 7
\end{cases}
\]
これを行列形式にすると
\[
\begin{pmatrix}
1 & 2 & | & 3 \\
2 & 4 & | & 7
\end{pmatrix}
\]
掃き出し法を適用すると
\[
\begin{pmatrix}
1 & 2 & | & 3 \\
0 & 0 & | & 1
\end{pmatrix}
\]
掃き出し法を用いた後の行列について、2行目を見ると0 = 1 で矛盾するため、解が存在しません。
逆行列の計算
逆行列の計算にも掃き出し法が有用です。行列 \( A\) が正則であれば、その逆行列 \( A^{-1} \) を次のように求めることができます。
行列Aの逆行列を求めたければ、Aが正則行列であることが条件です。
逆行列を求める手順
掃き出し法を使って行列 \(A\) の逆行列を求める際には、まず行列 \(A\) の右側に単位行列 \(I\) を追加した拡大係数行列 \([A | I]\) をつくります。
次に、この拡大係数行列に行基本変形を適用し、左側を単位行列に変形します。このとき、右側に得られる行列が \(A^{-1}\) になります。
逆行列を求めることができる理由
拡大係数行列 \([A | I]\) に行基本変形を適用して左側の行列を単位行列 \(I\) に変形するということは、行列 \(A\) に対して行列 \(P\) を掛けて単位行列にすることと同等です。これを数式で表すと次のようになります
\[
PA = I
\]
ここで、行列 \(P\) は行基本変形の積として表される。
同じ行基本変形を右側の単位行列 \(I\) に適用することにより、行列 \(I\) に対して行列 \(P\) を掛ける操作が行われます。したがって、右側の行列は次のように変形されます:
\[
PI = P
\]
以上の操作により、拡大係数行列 \([A | I]\) は次のように変形されます:
\[
[A | I] \rightarrow [I | P]
\]
ここで、左側が単位行列 \(I\) になり、右側には行列 \(P\) が残ります。 \(P\) がまさに \(A\) の逆行列 \(A^{-1}\) です。つまり、行基本変形により次の関係が成り立ちます
\[
PA = I \quad \Rightarrow \quad P = A^{-1}
\]
逆行列の計算
では、実際に具体的に見ていきましょう。
行列 \( A \) を次のようにします。
\[
A = \begin{pmatrix}
2 & 1 \\
1 & 1
\end{pmatrix}
\]
この逆行列を求めるために、単位行列 \( I \) を用いて次のように拡大係数行列を作成します。
\[
(A | I) = \begin{pmatrix}
2 & 1 & | & 1 & 0 \\
1 & 1 & | & 0 & 1
\end{pmatrix}
\]
後は、左側の行列が単位行列になるように掃き出し法を用いてあげれば逆行列を求めることができます。
\[
\begin{pmatrix}
2 & 1 & | & 1 & 0 \\
1 & 1 & | & 0 & 1
\end{pmatrix}
\rightarrow
\begin{pmatrix}
2 & 1 & | & 1 & 0 \\
0 & \frac{1}{2} & | & -\frac{1}{2} & 1
\end{pmatrix}
\rightarrow
\]
\[
\begin{pmatrix}
2 & 1 & | & 1 & 0 \\
0 & 1 & | & -1 & 2
\end{pmatrix}
\rightarrow
\begin{pmatrix}
2 & 0 & | & 2 & -2 \\
0 & 1 & | & -1& 2
\end{pmatrix}
\rightarrow
\]
\[
\begin{pmatrix}
1 & 0 & | & 1 & -1 \\
0 & 1 & | & -1 & 2
\end{pmatrix}
\]
よって、逆行列は次のようになります。
\[
A^{-1} = \begin{pmatrix}
1 & -1 \\
-1 & 2
\end{pmatrix}
\]
練習問題
では、逆行列を求めてみましょう!!
練習問題1
次の行列 \( B \) の逆行列を求めなさい:
\[
B = \begin{pmatrix}
4 & 7 \\
1 & 3
\end{pmatrix}
\]
練習問題1解答
まず、拡大係数行列 \([B | I]\) をつくります。
\[
\begin{pmatrix}
4 & 7 & | & 1 & 0 \\
1 & 3 & | & 0 & 1
\end{pmatrix}
\]
これを行基本変形で左側を単位行列にします。
\[
\begin{pmatrix}
1 & 3 & | & 0 & 1 \\
4 & 7 & | & 1 & 0
\end{pmatrix}
\rightarrow
\begin{pmatrix}
1 & 3 & | & 0 & 1 \\
0 & -5 & | & 1 & -4
\end{pmatrix}
\rightarrow
\]
\[
\begin{pmatrix}
1 & 3 & | & 0 & 1 \\
0 & 1 & | & -\frac{1}{5} & \frac{4}{5}
\end{pmatrix}
\rightarrow
\begin{pmatrix}
1 & 0 & | & \frac{3}{5} & -\frac{7}{5} \\
0 & 1 & | & -\frac{1}{5} & \frac{4}{5}
\end{pmatrix}
\]
よって、逆行列は
\[
\begin{pmatrix}
\frac{3}{5} & -\frac{7}{5} \\
-\frac{1}{5} & \frac{4}{5}
\end{pmatrix}
\]
練習問題2
次の行列 \( C \) の逆行列を求めなさい
\[
C = \begin{pmatrix}
1 & 1 & 1 \\
2 & 3 & 1 \\
-1 & 1 & -4
\end{pmatrix}
\]
練習問題2解答
まず、拡大係数行列 \([C | I]\) をつくります。
\[
\begin{pmatrix}
1 & 1 & 1 & | & 1 & 0 & 0 \\
2 & 3 & 1 & | & 0 & 1 & 0 \\
-1 & 1 & -4 & | & 0 & 0 & 1
\end{pmatrix}
\]
これを行基本変形で左側を単位行列にします。
\[
\begin{pmatrix}
1 & 1 & 1 & | & 1 & 0 & 0 \\
2 & 3 & 1 & | & 0 & 1 & 0 \\
-1 & 1 & -4 & | & 0 & 0 & 1
\end{pmatrix}
\rightarrow
\begin{pmatrix}
1 & 1 & 1 & | & 1 & 0 & 0 \\
2 & 3 & 1 & | & 0 & 1 & 0 \\
-1 & 1 & -4 & | & 0 & 0 & 1
\end{pmatrix}
\rightarrow
\]
\[
\begin{pmatrix}
1 & 1 & 1 & | & 1 & 0 & 0 \\
0 & 1 & -1 & | & -2 & 1 & 0 \\
0 & 2 & -3 & | & 1 & 0 & 1
\end{pmatrix}
\rightarrow
\begin{pmatrix}
1 & 0 & 2 & | & 3 & -1 & 0 \\
0 & 1 & -1 & | & -2 & 1 & 0 \\
0 & 0 & -1 & | & 5 & -2 & 1
\end{pmatrix}
\]
\[
\begin{pmatrix}
1 & 0 & 2 & | & 3 & -1 & 0 \\
0 & 1 & -1 & | & -2 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 1 & | & -5 & 2 & -1
\end{pmatrix}
\rightarrow
\begin{pmatrix}
1 & 0 & 0 & | & 13 & -5 & 2 \\
0 & 1 & 0 & | & -7 & 3 & -1 \\
0 & 0 & 1 & | & -5 & 2 & -1
\end{pmatrix}
\]
よって、逆行列は
\[
\begin{pmatrix}
13 & -5 & 2 \\
-7 & 3 & -1 \\
-5 & 2 & -1
\end{pmatrix}
\]
まとめ
今日できるようになったこと
・連立方程式の解の構造、種類について
・掃き出し法を用いた逆行列の仕組みと計算
このように、今回の記事では、具体例を交えながら掃き出し法の応用を詳しく解説しました。
これでバッチリ!!
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